口その2
口のもう一つの働きに、言葉を話すというのがあります。
正確には声を出す発声(はっせい)で、音声学において喉頭部にある声帯が肺から起こる気流に対して行う働きのことです。つまり空気が声帯を通ることにより微妙に振動して音を出す、この音が言葉や歌として聞こえるのです。
言葉はコミュニケーションにとって最も重要な道具です。言葉には話し言葉と書き言葉がありますが、人類の歴史の中で早いのは話し言葉です。
話す事は自分の意志を相手に伝える事です。でも古来日本人は会話が上手くありません。何故なら日本人は言葉以外のもので相手に伝える文化があるからです。言葉ではなく表情や雰囲気で相手に分かってもらうのが美徳されていました。言葉で話す時もはっきりとは言わず曖昧な表現をします。それは和風の建物の障子に現れていると思います。障子を一つ隔てた隣の部屋の事は、分かっても分からない振りをする、相手の事を察する思いやりの心です。ところが洋風の個室の部屋は完全に壁で仕切られて、隣の部屋の事は分からないようになっています。だから、相手の事を知るためには話す事が必要なんです。
この日本人の相手の事を察する文化は、欧米の契約文化では分かってもらえません。意見は口に出してはっきり言うのが求められるからです。だから、現代の日本人にはある程度自分の意見を言う訓練が必要なのかも知れません。
また、口は良い事も悪い事も話します。相手を褒める事もあれば悪口も言います。口は災いのもとという諺もあるように、うっかりすれば相手を傷つけたり相手の恨みを買ったりする事もあります。雄弁は銀、沈黙は金と言うように、時には沈黙を守った方が良い場合もあります。
お言葉に、「女が口軽く生れさしたのは相手を喜ばせるためや」とあります。女性がおしゃべりなのは、相手の悪口を言う為ではなく、相手を褒めて喜ばせるためなのです。
声は肥えや、と言います。作物を育てる時に良い肥料をするように、子供を育てる時には良い声(肥え)を掛けなければなりません。